誰にも届かない -nobody understand -

出された料理は、歓迎の気持ちで溢れていた。
とってもおいしそうに食べるコルー。
「おいしい?」という問いに、「うん!!」と元気に答えていた。

リシュは、これまでのことについて、話し始めた。

「小さい頃……物心ついた時からそうでした。
既に死んでしまった人の気持ちや声が、届くようになったのは」

リシュは、何事でもない、普段どおりだった昨日のことでも話すかのように、淡々と話していた。

「父と母は、神殿を守る……普段は教会のような場所にいる……司祭のようなことをしている人でした」

そこまでで一旦、話を止め、いつもの微笑を浮かべて……寂しそうな表情を浮かべた。

「私が、五歳の時、二人とも……死んでしまったんです……」

五歳――今のコルーと同じ年。
先程の悲しげな目は、その所為だったのだろうか?

「でも……施設で、大事に……大事に育ててもらったし、友達もたくさんいたので、寂しくありませんでした」

悲しみをギュッと押し込めた相変わらずの微笑で、ほぼ呟くかのように、リシュは言葉を続けた。

「その施設も、、つい先日火事にあってしまって……今はみんな……バラバラです。
みんな、兵士から逃げていきました。私も…………」

そして……シャイレに出会い……

そこまで話し終えても、リシュは涙も、見せず、少し悲しげな微笑だけ浮かべていた。

「私は……」

一瞬躊躇ってから、マリーも静かにこれまでのことを話し出した。

「私の夫は……戦死しました。戦場に行って……戻ってきませんでした」

それだけの言葉なのに。その時のことを少しも忘れていない、まだ明確にある記憶を感じさせた。

「テールは……息子は……」

マリーの潤んでいく瞳を、コルーが、心配そうに見つめる。

「道の真ん中に、誰かが落し物をしていました。それをテールは……『あんなところにあっちゃ、危ないよ!』と言って、拾いに行ったのです」

必死に涙をこらえているのに、涙の量の方が勝っていた。

「道に飛び出していった瞬間、兵士に撃たれて……しまいました……」

既にみんな食べ終わってしまった食卓に、ずしりと思い、悲しさが漂う。
相変わらず悲しさを押し込めたような微笑を浮かべたリシュが、おもむろに話し出した。


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