誰にも届かない -nobody understand -

案内された、家の中は、寂しいくらいに、綺麗で、整っていた。

「夕食、いかがですか?」

涙も止んだ彼女は、とても優しい目をしていた。
そんな目をぼんやり見ながら、リシュは答えた。

「いいんですか……? そんなにしてもらって……」
「でも、お腹すいているでしょ?」

その問いに答えたのは、コルーだった。

「ウン!!今日何も食べてないの」

コルーの笑顔に、女の人も微笑んだ。
それにつられて、リシュも笑い、シャイレは無表情で横を向いていた。

「名前、教えてなかったわね。私は、マリーといいます」

リシュとコルーも名乗り、何も言わないシャイレの代わりに、リシュが答えた。
マリーは小さく「よろしく」、と囁いて、台所に立った。

待っている間、リシュとコルーはまた楽しそうに飽きることなく話していた。

「お兄ちゃんなんで、喋らないの?」
「喋るのが好きじゃないんだよ。きっと」
「なんで好きじゃないんだろうね?」
「うぅーん……話すのが、恥ずかしいのかな?」

自分のことを話されていても、シャイレは我関せずと壁にもたれかかっていた。
眠っているかのように、目を閉じてもたれかかっていた。

「お兄ちゃんカッコいいよね!」
「凄い綺麗な顔立ちしてるよね。初めて会った時、ビックリしたよ」

そして、リシュは、シャイレに助けてもらった事を話した。

「お兄ちゃん凄ーい! やっぱり優しい人だったんだ!!」

"やっぱり"の言葉で、突然シャイレは顔を上げてコルーの方を見た。
目が合って、ニコニコするコルー。
すぐに、目を逸らして、また目を閉じるシャイレ。

――何か……少し動揺した……?

リシュは、思ったが……気のせいだ、と思い直した。
相変わらずニコニコするコルーの金髪をそっとなでた。

「ご飯、できましたよ」

並べられた、料理に溢れんばかりの笑顔を向けるコルー。

シャイレは、自分の分を無言で見つめていた。
リシュは、そんなシャイレの目から、驚きとか、微かな嬉しさを見たような気がした。

それでも、他の誰もがその目を見ても、何の感情も浮かんでいないと捉えただろう。


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