誰にも届かない -nobody understand -

「悲しい。こんなに悲しいことなのに、こんなこと、何処にでもあるんですよ、ね……」

「……そうですね……」

「このままだと、そのうち……世界は、悲しみに塗りつぶされてしまいます……」

リシュのまっすぐな目が、テーブルに注がれていた。そのうち、焼き尽くしてしまうのではないかと思わせる視線が、強くテーブルを刺していた。

「悲しみに色があったら、周りが見えなくなるほど視界をその色が占めてしまいます……」

強く悲しげな目、何かを悟ってしまったそのリシュの雰囲気をコルーが心配そうに見ている。

「悲しみが、水の形をしているとしたら……私達は足を容易くとられて、溺れてしまいます」

シャイレは、いつもの無表情で俯いたまま。何を思っているのかは全く読み取れない。

「私達は、何故こんな世界にいるのでしょう……? いや……何故こんな世界があるのでしょう?」

廃れた世界に自分達が堕とされてしまったのではない。自分達の世界が廃れた世界に貶められたのだ。

壊されてしまった世界に。永遠に引き離されてしまった家族に。

重すぎる悲しみから逃れることもできずに。

何をもってもその悲しみを例えることができずに。

その世界の住人は、延々と留まり続ける悲しみに縛り付けられ、戦うこともできずに……

……………………………………

「それでも……私達は、希望を見つけることができますよね……?」

コルーは、意味をわかってかわからないでか頷いた。

「私は……一度だけ。十年前に見つけて、失いました。でもまた……またその希望が見つかると信じています。」

それまで、静かに黙って聴いていたマリーが、話し出した。

「あの……貴方達にお願いがあります。

…………コルーを……私に引き取らせて欲しいのです」

コルーが驚いたようにマリーを見る。
リシュも驚いたようにマリーを見て、輝いたような笑顔になった。
シャイレは……書くまでもなさそうだが、無表情だ。

「コルー、どうする?」
「うん。行くところないし、マリーさん優しいし」

リシュの問いに、コルーは、とても嬉しそうに答えた。
二人の笑顔が、キラキラ輝いていた。
眩しく、輝いていた。

マリーは、またリシュに問いかけた。

「貴方達は……これから何処に行くのですか?」
「私は……何とか施設まで帰ろうと思います」
「シャイレさんは……?」
「…………」

シャイレは、相変わらず何も話さない。


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