誰にも届かない -nobody understand -

シャイレは「何処に行くの?」という質問に全く答える事もなく歩き続けていた。
他に何を尋ねられても答えないが。

「コルーは何歳?」
「五歳!!」
「……そっかぁ」
リシュは悲しげな目を前に向けた。
「お姉ちゃんは?」
「十七歳、だよ」
「凄ぉーい!!」
「コルーも十七歳になれるよ!!」

コルーはグッと上を向いて、シャイレの方を向いた。

「お兄ちゃんは?十七歳??」

シャイレはまた睨むように見下ろす。
コルーはそんな目付きも気にせずにシャイレを見ていた。

いつものようにすぐに目線を戻すシャイレ。
それでもリシュはシャイレの微かな頷きを見逃さなかった。

「十七歳だって」
「お姉ちゃん、またわかったんだ凄ーい!!」

気がつくとシャイレは立ち止まっていた。
アースウェスに着いていた。
それでも二人はシャイレに着いていっていた。

先程の場所には全く及ばないが、荒んでいた。
戦闘機こそ使われないが、銃を持った兵隊は街をうろつく。

シャイレは路地裏を進む。
みんな路地裏か家の中。
家自体は滅多に襲撃されない、からだ。

そうして歩いていると、リシュは、また突然立ち止まった。

「ごめん!待って……!」
「どうしたのぉ?」

壁を向いて、しゃがみ込むリシュに合わせて、コルーも座る。
リシュが向いた先に、女の人がしゃがみ込んで俯いていた。

シャイレは、またかよ。という感じの口の動きをした。
ため息は、聞こえたが、声は聞こえるほどの大きさではなかった。

リシュとコルーも二人でコソコソと話し始めた。

「ちょっとお人形ごっこしよっか」
「お人形ごっこ?」
「そう。コルーがお人形になるの」
「えぇ??」
「私が、お人形さんになったコルーを動かすの」
「面白そう〜!」
「ニコニコしたお人形さんになってね!」
「わかったぁ!!」

話が終わると、リシュはコルーを女の人のほうに向かせた。
リシュは後ろから、コルーの手首をそっと掴んだ。
そのまま、リシュは女の人に向かって語りかけた。

「お母さん、もう泣かないで」

言われたとおり、ニコニコしているコルーの手を、動かしながら。

「これから僕はお父さんの所に行くんだよ。もう、何処も痛くないよ」

「……僕達のこと、忘れないでね……ありがとう……」

女の人は、俯いた顔を上げていた。
コルーの目を真っ直ぐ濡れた目で見つめていた。
そしてゆっくり立ち上がって、優しく囁いた。

「私の家に、あがってもらえますか?」


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