サディスティックハーフムーン-Heart Messenger-


 あの馬鹿が。

 隠しているつもりだろうけど、そんなの無駄。
 多分私は初日から見破ってるよ。
 最近、目が死んでるじゃないか。

 多分私は大体見通してるよ。
 私のせいなんだろ?
 ねぇ、そうなんでしょ?

 何で、お兄ちゃんはそんなことしてるの?
 病気だから?
 今まで優しかったじゃないか。
 ハルアにだって優しかったじゃないか。
 お兄ちゃんは暴力とかそんなのから無縁だったのに。
 もうすぐ死んじゃうかもしれないと、ハルアに酷いことするの?

 ハルアの方が死んじゃいそうだよ……。

 どうしよう。ハルアが死んじゃったらどうしよう。
 ちゃんと見たわけじゃないけど、凄く傷だらけなんでしょ?
 朝起こす時、ちょっと袖をめくってみたんだ。
 きっと私の代わりなんだ。私の代わりにあんなことされてるんだ。

 一人部屋にしては広い空間。
 ベッドの上で私は一人思案に暮れる。
 気配からして、ハルアはちょっと前に自分の部屋に帰ってきたはずだ。

 自分のパソコンの前に座る。
 メッセンジャー起動。
 ハルアはオンライン。大体部屋にいる時は、お互いオンラインで放置している。
 だから、いつも話したい時に部屋にいながら話す。

「Rui:いるー?」

 ほんの数秒ですぐに打ち込まれる文章。
 画面に浮かんだ文字を見ながら、私はしばし待機する。
 ……返答なし。
 いつもなら、ここで諦めて別のことをする。
 でも、今日はもう少しだけ待ってみた。

 ハルアは以前にこう言った。
「素直で可愛い妹が良かったなー」
 笑いながら、私をからかうように言った。
 本当に冗談のように言っていた。
「こうさ。お兄ちゃーん! ってくっついてきてくれるみたいな」
 何処までが本気かわからないけど、そんなことをある時にふと言っていた。

 本当にそう思ってるのかな?
 そしたらこんなに間逆な私は一体。

 もう一度、キーボードで文字を打ち込む。

「Rui:いるんだろ? 無視しないでくれwww」

 やはり返答なし。
 わざわざそんなことを書いたりしないから、少しは反応見せると思ったのに。

 ねぇ、まだ一緒にいてくれるよね?
 いなくなったりしないよね?

 さっきから頬を伝う感覚。次々溢れて止まらない。

 絶対言わない。言えないし言わない。
 心の中までで止まっている思いが、ただ頬を濡らすそれに変わる。

 助けてくれ。誰か助けて。ハルアを助けて。
 今日だって、暴力受けて帰ってきたってわかってるんだよ?
 お兄ちゃんを止めて。

 眼鏡を外して、袖で目を拭う。それでも視界はすぐに滲んで。
 あまり見えていないまま、またキーボードを叩く。

「Rui:部屋にいるくせにィィィ!! 双子の電波ナメんなよ!!」

 駄々までこねたのに、やはり反応はない。

 どうしたらいいんだ。
 どうにかしたいんだ。
 どうしたらいいの?

 でも、ハルアが私を守ろうとしてくれたみたいに、私もハルアを守らなきゃいけないんだ。

 もう一度、目を拭う。
 立ち上がる。

 とにかく、行動に移す。
 そんなこと考える間もなく、私は部屋を出て行った。

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メッセンジャーはやったことないです。


読んでいただきありがとうございました。
 

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