誰にも届かない -nobody understand -

シャイレは、少し手を震わせて首のバンダナ? を外した。
いきなり、リシュの前に出てきた。
外したバンダナを、リシュの怪我した足に手早く巻きつけた。

キュッと締めて、今度は素早くリシュに背を向けてしまった。
そんなシャイレにリシュは、ポツリ、と話し始めた。

「私……十二年くらい前に、両親が死んでしまって…………
その場面を……見てしまったんです。

私は何とか助かったけれど……その時のショックなのか……声が出なくなったのです。
施設でも……誰にも何も話せなくて……孤立しかけていました。

そんな時、私と仲良くしてくれた友達がいたのです。
その友達は、明るくて優しくて。いつも私と一緒にいてくれました。

時々、二人で散歩に出かけました。
友達は、誰も知らないような裏道を知っていました。
そこをいつも探検していました…………。

ある人に出会ったのは、私が施設に入ってから二年後。今から十年前のことでした。

いつものように探検していたら……ある、小さな家を見つけたのです。
ひっそりと、誰にも見つからないような場所に、その家はありました。

その家の窓の下に、一人の少年がもたれかかっていたのです。
凄く透き通った銀髪に、深い青の目。
とても綺麗で、端整な顔立ちをしていました。
年は、私達と同じくらいに見えました。

彼は、何をするでもなく、空を見上げていました。
その目は、空の青さに染まっているようでした。

私は、その人に、一瞬にして惹かれてしまいました。
恋に落ちてしまったと言うのには、軽すぎて、簡単すぎました。
愛してしまったと言うのには、今の私にも幼すぎました。

どう言葉で表していいかわかりません。
とにかく、その人は、私にとって大きな存在となったのです。

友達が、

『凄く綺麗な人だね!』

ととても感激したように言いました。
私は友達に頷きました。

『綺麗……』

私の呟いた言葉は、しっかりと声になっていました。
驚いて友達のほうを振り向いたら、友達も驚いていました。

『やったね! 声、出たじゃない!!』

私は、友達と喜び合いました。
たくさんたくさん、喜び合いました。

友達も私も、

『あの人が、声を取り戻させてくれた……』

と思っていました。私は今でもそう思っています。
自分が、ここまで惹かれた人が声を取り戻させてくれた。

私は、その出会いが運命だと信じてやみませんでした。

それからも私達はこっそりと、その人に会いに行きました。
といっても、大体見ているだけでしたが……

その人は、いつも同じ場所で、空を眺めていました。
それ以外の姿は……お母さんらしき方と、話しているのを見かけました。

今思えば、見ているだけではなく、話しかければよかったのです。
結局その人とは一度しか話せなかったのですから…………


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