アースウェスの会議室。
いかにもな重役が、そこが居場所とでもいうようにどっしりと座っていた。
四角いテーブルを囲んでいる。
「B-e'sはまだ見つからないのか?」
「そうらしいですぞ。」
「自分の正体に気づいたのか?」
「正体とは何だったかね?」
「あのホープウェイ出身の。」
「それは知っている。」
「戦いの才能に長けているまだ若い少年。」
「それも知っている。」
「重傷を負い、声を失った……」
「喋れないのか。本名は?」
「本名は忘れた。」
世間話でもするかのように、続いていく終わりなき会話。
「何故アースウェスの訓練場に?」
「戦いの才能に長けているからだ。」
「知っている。それに先程聞いた。」
「B-e's宅に襲撃した時に、拉致した。」
「自分は、そのことを?」
「知っている素振りを見せたことがないらしい」
始まりから終わりまでは、一息入れる間もなく続いていく会話。
そして、話の目的を思い出したかのように、また会話は始まった。
「それより、B-e'sの行方だ」
「アースウェス南で、一度発見されたのだが……」
「されたのだが?」
「見つけた兵士達は、一掃された」
「…………」
「…………」
ここで、重役達は、"戦いの才能に長けた"を思い出す。
本当に、兵士達を指揮できているのかという会話が続いていく。
「しかし……私は、B-e'sを刺したあの時を忘れてはいない!
B-e'sの抵抗も、全くかなわなかった。
兵士達が、一掃されるなんて……」
「当時は七歳なのだろ?」
「B-e'sは張り倒された……」
「あれから、十年経つのですぞ?」
「…………」
「…………」
彼らは、自分達が少年を訓練して、強くしてしまったと気づいていない。
本当に、兵士達を指揮できているのだろうか?
何とも言えない空気が流れる中、会議室には似つかわしくない少女がいた。
「何故、戦いの才能に長けた少年を訓練場に入れたのですか?」
静かな問いかけが、会議室に響いた。
誰も少女に気づかない。
これは、稀に間抜けな会話をするからではない。
少女が気配を消しているからである。
「愚問な。戦いに勝つためだ」
「何故戦うのでしょう?」
「ホープウェイの土地を獲得するためだ。今時、そんなことも知らないのか」
重役達は、会議室にいる人間が、一人どころか、二人も増えていることに気づかない。
少女が、今度は二人になった。
「ホープウェイの人達は、居場所をなくしますよね」
「邪魔だから、殺したり、奴隷にしたり」
「何故彼らはこんな目にあわなければならないのだろう?」
会議室に増えた人数は、三人になる。
四人になる。五人になる。
「街の兵士は、ホープウェイの人達を脅かすために……戦うことになっています。」
「……ホープウェイを獲得し、アースウェスをより列強の名に並べるためだ……」
重役が、呟く。未だに、増えた人数に気づかない。
現れた者達の織り成していく不思議な、現実味のない雰囲気にただ、飲み込まれていく。
「あなた達以外、誰もそんなこと望みません」
「この国が、列強の中に、名を連ねたとしても、私達の何が取り戻せるのですか?」
「私達の家族を、私達の命を返してくれるのですか?」
重役達は、既に何も答えない。
雰囲気に全て捕らわれていっている。
現れた者達の向こう側に、現れた者達の背後にある風景が映っているとも、気づかない。
現れた者達を通して、向かいの壁が見えると気づかない。
「このまま戦争を続けて、国中みんなが、亡くなったらどうなるでしょう?」
「残るのはあなた達だけ」
「そしたら、あなた達だけで戦争をしてくださいね」
「私達がいないと、国は成り立ちませんよね」
問いかけと、意思表示は、終わらない。