シャイレの首は上下に微かに揺れて、寝てしまったかのように見えた。
それでもリシュが部屋に戻ってくるとすぐに顔を上げた。
シャイレが何か尋ねたそうにリシュを見る。
いつものように、リシュはそんなシャイレの気持ちを察して、隣に座った。
『……ホープウェイって、どんなところ……?』
相変わらずのポツリポツリとした話し方で、シャイレは尋ねた。
「今は……壊滅状態、かもしれないね……
自分達の居場所を奪われそうになったわけだから……
ホープウェイの人達も、多少は反撃したみたい……
……あまり争いは好きじゃないみたいだけど。
でも、それこそ無差別にその人達は、殺されてしまった……。
何もできずに佇んでいる人達も、誰かを守ろうと必死になった人達も。
殺されるか……奴隷にされた、みたい……」
シャイレの伏せた目。いつもは無表情なその目が、疲れた風に見えた。
その時の目は、リシュでなくてもそういう風に見えたであろう。
『でも、軍事施設に入れられた話なんて聞いたこと、あるか……?』
「……ないなぁ……」
即答だった。
ホープウェイの人が軍事施設に入れられたら、自分の国を壊す為の訓練となってしまう。
『そう、だよな……。
俺は、何者なんだろう……?』
部屋に、フゥー……というシャイレのため息が聞こえた。
『どうあがいても……あの時のことしか思い出せない。
あの時の痛みも、あの時の光景も、はっきり……覚えてるのに……』
「シャイレは……楽しい記憶、ないんだね……」
シャイレは、遠くを見た。壁に阻まれても、もっと先へと伸びる視線。
軽く眉を寄せる。
必死に思い出そうとしているのに、ただ頭の中には空白。
声を失くしたその時と、ただひたすら心を無にして、感情を無くして過ごしていた訓練の日々。
他に思いつくものなどなかった。
何か重いものを乗せられたようにがっくりうなだれるシャイレ。
青い目に映った失望が物悲しかった。
気がつくと、リシュが心配そうに見つめていた。
シャイレはそれを見て、唇をもごもごさせた。
また必死に笑おうとしているのに気づいたのは、リシュだけだろう。
リシュは心配させてしまったのを悪いと思って、笑顔を作ろうとしたことにも気づいていた。
「部屋ね。燃えちゃった部屋もあるから、足りないの。空いてる部屋がないんだよ。
この部屋で平気?」
シャイレはこくりと頷いた。
かなりの人見知りのようなので、願ったりかなったりだったのかもしれない。
「ルラ、夜に帰ってくるかもしれないから……ベッドは使えないかな?」
シャイレに対してと自分に対して呟いて、収納から毛布を出した。
「ごめんね」と一言、毛布を差し出した。
シャイレは、首を横に振り頭を下げて、毛布を受け取った。
『……帰って、来ると……いいな。』
相変わらず途切れ途切れの言葉を発して、シャイレは首を傾けた。
長めの前髪が、シャイレの片目を覆った。