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エスティーメモランダム

-恋焦ロジック-


パターンA
 どうやら独りぼっちはおしまいでいいらしい。

 自分の地位を確立するための、裏で広がる駆け引きに嫌気が差していた。自分の居場所を得るために、何故自分を殺さなくてはならない。面白くない話題で笑い、くだらない悪口に共感する。何だ、みんな同じ思考を持っていなければいけないのか。異端は弾かれる。出ていない杭も打たれる。埋まっていても掘り返される。そこに、成績も性格も容姿も何もかもが関係ない。傾向はあれども、それが全てではない。ただ、決まりきった狭い世界が続いているだけ。自由に生きればいいのに、誰もそれをしようとしない。
 全てを放棄して、私は本に目を落とす。難しいことなどしなくていい。本を広げれば、狭い世界を脱却できる。

 私は携帯から目線を上げる。昼休みの教室、それぞれが思い思いに過ごしている。友達と楽しそうに話していたり、ゆっくりお弁当を頬張っていたり、ひたすら携帯に向かって何事か打ち込んでいたりだ。
 誰もがのびのびしている。何者にも縛られることなく、自由に過ごしているように見える。私だって、のんびりお弁当を食べて、それからは携帯で遊んでいる。
 友達がいないわけじゃない。仲の良い友達はいる。ただ、今は気分じゃないだけ。友達は私のそんな気分を察してくれて、別の子と話している。友達は私のペースに合わせてくれて、私も一応友達に合わせたりもする。そこに無理はないし、強制もない。とても心地が良い。友達は変わっているけど、友達も変わっている私を受け入れてくれる。
 今だって本は大好きで、時々広い世界に飛び込んでは旅に出る。でも、その本へ逃げ込まなくても、私は世界を放棄しなくてよくなったのだ。ただ、あの最悪な学校を卒業して、今の学校に入学しただけなのだが。友達がこちらをちらりと見て、にっこり微笑む。私も微笑み返す。
 辛いことはおしまいだね。読書は現実逃避から趣味へと変わり、私の世界は外側へと移行した。携帯を閉じて、今度は机に突っ伏した。


パターンB
 一緒にいることができるだけで幸せ、というやつなのです。

 僕の目は今日もあの子を追うのです。授業中も、チラチラとその動向を見守ってしまうのです。ほら、また落書きしている。
 普段は友達として一緒にいます。仲は良いと思っています。あの子の方は僕のこんな気持ちなど知るはずもないでしょう。そして、それでいいのです。
 あの子が僕の気持ちを知ったら、十中八九戸惑うでしょう。良い方向になど転がらないのです。あの子は僕と友達のままでいることが一番幸せ。そして僕も友達のままでいることが幸せなのです。今のままが一番いいのです。そう、これは複雑な恋なのです。叶わぬ恋というやつなのです。
 でも、僕はとてもとても幸せなのです。
 授業が暇だから僕は想像にふけるのです。現実にありえないなら、頭の中で空想するのです。それは悪いことではないのです。頭の中までなら自由なのです。
 あの子に僕は好きだよ、と言います。あの子は照れたように俯きます。言われたことのない言葉に、あの子は頬を赤らめます。僕はあの子の手を取って、ぎゅっと繋ぐのです。そして一緒に歩きましょう。何処に行こうか。たくさん思いつくな。でも、一緒にいれるなら何処でもいいな。
 お、想像していたらチャイムが鳴った。昼休みですね。あの子はせっせと授業道具(落書きノート)を片付けて、お弁当を出している。こっちには来ないようだ。
 僕もお弁当を出す。おばあちゃんの手作り弁当です。僕もお手伝いしたのだ。僕はうーちゃんのところに行きました。うーちゃんも僕のお友達です。

「うーちゃん、ご飯食べよ」
「だから、何でうーちゃんなの」
「あーちゃんがあーちゃんで、僕がいーちゃんだからです。そしてうーちゃんは内田さんだからです」
「誰もあーちゃんって呼んでないから。まこもまこって呼んでるでしょ? 私もうーちゃんって呼ばれてないから」
「うーちゃんは、うーちゃんです。内田さんは、うーちゃんです。ご飯美味しいです」
 僕は幸せです。ご飯が美味しいから。後は。
「あーちゃんも美味しそうにご飯を食べています。僕は幸せです」
 離れていても、見てしまいます。あの子は美味しそうにご飯を食べています。
「まこはいつもあの人見てるね」
「見てるよ。好きだもん」
 僕は卵焼きを頬張ります。美味しいのです。
「じゃあ私とじゃなくて、あの子と食べたほうが楽しいんじゃない?」
「あーちゃんは今日気分じゃないのです。うーちゃんは寂しい僕に構ってくれます」
 うーちゃんは僕とご飯を食べてくれます。お話し相手になってくれます。とてもいいお友達です。
 僕の目はまたあの子に向く。あの子もこちらを見る。目が合った。僕は嬉しくてにっこり笑いました。するとあの子も微笑み返してくれました。
 ご飯美味しいし。あの子と一緒にいられるし。僕はとっても幸せなようです。


パターンC
 それでも私はあなたを想っている。

 授業中。私はあなたを見る。黒板ではなくて、あなたを見ている。そのあなたは、あの人を見ている。あの人はあなたの視線に気付いていない。(落書きに夢中のようだ)あなたも私の視線に気付いていない。(……あの人に夢中だから)
 なんていう関係図。なんていう一方通行。その全貌をわかっているのは私だけ。あの人はあなたの気持ちを知らない。あなたは私の気持ちを知らない。
 授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。みんなそれぞれの場所へと散って行く。あの人は自分の席で何やらごそごそとしている。あなたのところには行かないようだ。
 あなたはあの人をまだ見つめる。一緒に過ごす雰囲気ではないことを察したようだ。あなたは私の元へとやってきた。そしてお弁当を食べよう、と誘う。相変わらず奇妙にすら思える呼び名で私を呼ぶ。
 この昼休み中、あなたは私から離れられませんね。
 寂しいから。退屈だから。それを埋めるのが私の役割のようだ。
 そのくせ、なんでしょう。あなたはあの人と同じ空間にいて、視界に入っているから幸せのようだ。
 あの人がいないから、私を選ぶ。あの人の代わりに、私を選ぶ。
 あの人を見ないで、私を見て。そんなこと言えたら、あなたは何て言うのでしょう。
「うーちゃん、ご飯美味しい?」
「ん? 美味しいよ」
「それは良かったのだ!」
 だから、何故うーちゃんなの。目の前のあなたはとても美味しそうにお弁当を食べていますね。おばあちゃんのお弁当が大好きですもんね。あなたには両親がいない。生きてはいるのでしょうけど、側にはいない。おじいちゃんとおばあちゃんと三人暮らし。あなたは家族二人が大好きで、あなたも愛されているみたいだけど、寂しい思いもたくさんしているのでしょう。そんな中、あなたはあの人に出会ってしまった。

「僕はね。満たされたの。何て言っていいかわからないけど、心が幸せでいっぱいになったんだよ」

 あなたはそう言っていました。そんなあなたは確かにとても幸せそうでした。
 私じゃないのだ。私ではあなたを幸せで満たすことはできないのですね。ふいに涙が浮かびそうになり、慌てて堪える。
「うーちゃん、どうしたの? 僕の卵焼き、あげるよ?」
 あなたは優しい。私は悲しい。
「あのね、うーちゃんは僕と遊んでくれるの。あーちゃんも大好きだけど、僕はうーちゃんも大好きだよ」
 あなたは必死になって私に話します。私はあなたの目を見ることができません。あなたの大きな可愛らしい目を見ることができません。重たそうな前髪に隠れた綺麗な眉も、必死に動いている小さな唇も見ることができません。
「うーちゃん、大好きなの。大事なお友達なの。だからね、悲しそうだと、助けなきゃいけないの。僕はこんな愛らしい顔だけど、中身は男前なんだよ?」
 何処が男前なのですか。あの人までこちらを見ているではないですか。眼鏡を光らせて、ちょっとだけ心配そうじゃないですか。あの人が心配するなんて何だか大ごとのような感じがするじゃないですか。いや、私はあの人についてよく知らないけれど。
「うーちゃん、うーちゃん、あのね。あのねっ……。えーっとね。そうだ! うーちゃんもあーちゃんと遊べばいいのです」
 あなたは必死に言葉を探す。私を励ますための言葉だ。
「あーちゃんと遊ぶの楽しいよ! あーちゃんは面白い話いっぱいしてくれるよ!」
 それだけ名前を呼んだら、あの人がこちらを向くのもおかしくない。
「ね。ねっ!」
 あまりにもあなたはおろおろするし、あの人もまだこちらを向いている。
「うーちゃん、僕はうーちゃんお友達! 元気出して!」
 あの人がいないから、私を見ている。その私にあの人の話をする。
 なのに、嫌いになれないのは何故?
 あなたも、あの人も。
 必死に励まそうとしているあなたも、素知らぬふりをしつつも、私を心配するあの人も。
 私達の一方通行は何処にも行けない。誰も答えられない。でも、このまま無意味にはしたくない。意味のあるものにしたい。
 動かない三角形。綺麗な形を保った悲しい三角形。それが私にとって幸せではないですか。この位置が心地良い。あの人を想うあなただから、また好きになってしまう。
 あの人の代わりに私を捕まえているあなたを、私は想っている。

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