サディスティックハーフムーン-double personality-
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past/age.9
広い子供部屋。
そこには母親であろう女性と、男女の双子であろう子供がいる。
双子の片方は、額に冷却シートを貼り付けてベッドに横たわっている。
母親はそんな片方を看病している。
もう一人の方は、壁にもたれながらそれを見ている。
横たわっている方が多分男の子で、むすっと男の子を見ている方が女の子だ。恐らく。
二人はよく似ている。顔立ちも似ているし、女の子のショートヘアーのような髪型だ。
女の子は冷たく男の子に向かって言い放った。
「ハルアなんか死ねばいい!」
そして唇を尖らせる。そんな女の子を母親は叱責する。
「春依、そんなこと言っちゃ駄目でしょう?」
春依(はるい)と呼ばれた女の子は更にふてくされた顔をして、部屋を素早く出て行った。
春依は廊下に出る。そして高校生くらいの少年とすれ違う。
双子二人の兄だろう。学ランに黒髪。精悍で端正な顔立ちだ。
兄は、妹のふてくされた表情を見て声をかけた。
「どうかしたか?」
「どうもしねぇよ」
春依はそれだけ吐き捨てて、その場を去った。
兄は溜め息をつく。この妹の態度は普段通りだ。
子供部屋から、母親が出てきた。
「あら、おかえりなさい」
と優しく言って、母親は何処かへ行ってしまった。
兄は子供部屋に入っていく。
目に入るのは、ベッドの上でぐすぐす泣いている弟の遥亮(はるあき)。
兄の姿に気付いた弟は慌てて涙を拭う。見られるとは思っていなかったようだ。
「ハルア、何泣いてるんだよ。どうした?」
兄は弟の目線に合わせてしゃがみ、頭を撫でて優しく話しかける。
「春依が死んじゃえって言ったぁ……」
熱の所為で赤らんだ頬。涙の所為で赤く充血した目。
兄はまた溜め息をついた。そして弟を優しく諭す。
「春依のアレはな。愛情表現だ」
「あいじょーひょーげん?」
「ハルアに遊んでもらえないから寂しいんだよ。だから言っちゃったんだよ」
「春依は遊んで欲しかったの?」
「多分そうだ。構ってもらえないから寂しかったんだ」
弟の目はキラキラと輝いた。
「そうか! あいじょーひょーげんか! お兄ちゃんありがとう!」
兄はまた優しく弟の頭を撫でる。
年の離れた弟と妹に、兄はいつでも優しかった。
now/age.17
記憶にあるのは、赤だった。
赤、ただそれだけだった。
語り尽くせないほどの暴力を受けたのは覚えている。
しかし、具体的に何をされたのかはまるで思い出せない。
思い浮かぶのは赤。言い表すなら赤だった。
自分から滲む赤。
ナイフを濡らす赤。
次にあの人は何処かに消えた。
そして、赤く染まって帰ってきた。
それから、私を逃がした。
動けなくなっている私を、蹴り飛ばして逃がした。
赤く染まったあの人は、最後泣いていた。
あの人自身からも赤は流れていた気がするけど、そんなこともいまいち覚えていない。
たったそれだけの記憶のせいで、私の全ては壊れてしまった。
今言えるのはそれだけだ。
いきなり現れた紺色は、鮮やかな赤にも勝っている。
目の前にいるのは、制服のスカートを履いた"彼"だった。
膝上まで伸びるハイソックス。膝丈より少し短いフレアスカート。どちらも紺色だ。
確かに、その服装では違和感なく女の子にしか見えない。
彼の声は女の子の低い声に近いものがある。
しかし、彼は自分を男だと言い張っていた。
なので私の認識の中でも、彼は男の子であるはずだった。
完全女子高生になっている彼は第一声、
「突っ込んだら負けね」
と吐き捨てた。
もしかしたらやはり女の子なのか?
そんな考えもつい浮かんでしまうが、彼は普段学ランを着ている。
この家を出る時は、学ランだったはずだ。
どうしても突っ込みたいのだが、突っ込んだら怒られるのだろう。
なので、別のところを触れさせてもらった。
「その目の下のアザはどうしたんですか?」
睨まれた。
鋭い目つきで睨まれた。
ただでさえも悪い目つきで睨まれたら、あら怖い。
「制服着てただけで殴る親が何処にいるのかと」
「え、何?」
「死ねばいい」
聞き返したら、怒られた。
これも触れてはいけないようだ。
私が言えたことではないのだろうけど、彼は謎が多くて困る。
死んだように黙っていると思ったら、勢いよく喋り始めたり。
大体その二パターンだ。ある意味はっきりしていてわかりやすいけど。
彼は、別の部屋へと行ってしまった。
それを見届けて、彼のお目付け役である二人組みがこちらにやってきた。
二人組みに私は尋ねた。
「春依君は、母親に会いに行くと聞いてましたが? あのアザって……」
「春依様は奥様に……あ、いえ、何でもないです。気にしないであげて下さい」
気になるっつの。
質問を変えよう。
「では、死ねばいい、というのは?」
「あれは愛情表現です」
随分と捻くれた愛情表現で。
「春依様のあれは、愛情表現です!」
二人組みは何故だか誇らしげに言う。
私に天然を疑われている二人組みだ。
私は春依君の後を追って、部屋に入った。
春依君の姿が見えないと思ったら、床に倒れていた。
女子高生ルックスのままで。赤い眼鏡もかけたままで。
「あの、大丈夫ですか?」
返事がない。ただのしかばねの……みたいだ。
春依君は目を閉じていた。眠っているのか起きているのか、わからない。
閉じた目の下にはアザがあり、そのアザの脇を涙が通った。
一筋通ったそれはそれきり流れなく、眠気から来るものにも見えた。
そして彼は口を開く。
「放っといて下さい」
「大丈夫なんですか?」
「放っとけと言ってるでしょうが」
冷たい口調で私を追い払う。
言われっぱなしも癪なので私も言い放つ。
「この二重人格が」
女の子だったり、男の子だったり。
生きてたり、死んでたり。
その切り替わる様は正しく二重人格だ。
激しい二面性を見せる彼は起き上がって、私の目を真っ直ぐ見て、
「ちょっとくらいズレないと生きていけないじゃないですか」
と言った。そうか、わかった。
彼の二重人格は防御壁だ。
そうやって切り替えて彼は生きているのだ。
そうしないと生きていけないのだ。自分を保てないのだ。
私と一緒だ。彼は自分を捨てようとしたり、捨てきれなかったりしている。
私はそのことに気付いてしまった。彼の核心に一つ。
普段彼が着る黒い私服は、誰に対する喪服なのだろう。
彼は誰になりたいのだろう。
一つ気付いたって、何事にも立ち入らせない彼には謎ばかり。
「まぁ、でも、二重人格な春依君でも嫌いじゃないですよ」
「死ねばいい」
ほらまた立ち入り拒否する。いや、愛情表現なのか?
どうしたら彼は楽になるのだろうね。
それきりまた死んだように無言になってしまった彼を一瞥。
仕方なく私は部屋を出て行った。
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結論彼の正体が何なのかは、本編をどうぞ!
(…としか言えなくなりました)
おまけ
思い出したように、私は再び春依君のいる部屋へと入った。
春依君は、まだ床に横たわっていた。
「春依君の辞書に『布団』っていう言葉はあるんですか?」
寝ているかとも思ったが、返事は意外とすぐに返ってきた。
「気になるならハルペディアで調べるといいですよ」
「何ですか、それ」
「わからないならヤホーで調べるといいですよ」
「ネットにあるんですか?」
「いやーでも見つけるの大変ですよ」
自分のネット上百科事典なのだろうか。
本当にありそうな感じが否めない。
彼のネット技術は大層なものだから。
私は、ハルペディアを意地でも見つけることを決意した……。
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くだらなくてすいません。
このネタはいつか別のところできちんと使います。
できれば、ハルペディアは検索しないでやってください。
読んでいただきありがとうございました。
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