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1.午後はマックで作戦会議
「え、今日ビタースイートお休みなの?」
「今度の練習曲、何処で会議する?」
今日も僕達は三人で集う。
学校の外で、本日の作戦会議の相談。外はぽかぽかいいお天気。澄んだ空が気持ちいい。
部室の次くらいに溜り場にしている喫茶店、ビタースイートは本日休店日らしい。
「近くにあるのは……マック?」
僕は思いつくまま提案してみる。
「マック? 俺はWin派だよ?」
「違うよファーストフードのだよ」
「俺、マックさん体質に合わないのよ。美味しいのに」
僕の提案に返してくれたのは、我がバンド、チョコレートクランチのギター、翼。
とても整った精悍な顔立ち。目も二重で大きい。キラキラしていてアイドルのよう。ちょっと長身。我がバンドのイケメンだ。
時々不思議な部分が見受けられる。マックが体質に合わなかったりするようだ。
「あ、俺マックのクーポン持ってるわ」
「マジかい。何処で手に入れたの?」
「今朝の朝刊」
「チラシ!? チラシなのですか!?」
いきなりクーポンをヒラヒラさせたのは、ヴォーカル、ハル君。色々と名乗っているけど、本人曰く呼び名も本名も何でもいいらしい。ハル君というのは、ニックネームだ。そこに至るまでの経緯にはかなり悲しいものがある。
少し低い身長に、切れ長の目。眼鏡をかけている。何故か服が黒く、顔立ちは中性的で、何となく悪魔めいている。
何故だかいつも抜かりないところを持っている。今日マックのクーポンを持っていたのは、偶然か策略か。
どうしてこうして、僕達は初マック作戦会議を開催したのだ。
「ねぇ、何でみんなハンバーガー頼まないの?」
「いやぁ、だからさ、体質に合わないんだよ。一番合わないのはポテトなんだけど。美味しいのに……」
「俺は少食なんだよ。ハンバーガーなんか食ったら夕ご飯食べれないんだよ。知ってるだろうが」
僕の質問に、二人は相変わらずに個性丸出しの返答をする。
何故かポテトを食べたら調子を崩すらしい翼。(本人にも原因はわからないらしい。美味しいとは思っているだけにちょっと可哀相)
確かに細身で、普段もガツガツ食べないハル君。(「知ってるだろうが」はい。知ってます。すいませんでした)
そんな二人は、小さなパンケーキをつまんでいる。僕もそれに合わせて、パンケーキをつまんでいる。
「今度の曲、何やろうねぇ」
「チョコクララバーカバーシリーズ2は、もう少し後だよな」
チョコクララバーカバーシリーズとは、ただ単に僕達三人が好きなアーティストの曲をカバーしたというだけの名称だ。
命名はバンドも名付けた、名付け王子翼。(王ではなく、王子。わかりやすくルックスから名付けられた)
特に音楽の道に進む夢もない僕達は、ひたすらやりたいことを追究している。
「ラバーカバーも、何か括りをつけるとか?」
「それは楽しそうだな」
「どんなテーマにしようか」
「月とかどうだろう」
「いいねぇ。候補の一つにいれよう」
「翼は何か思いつくテーマある?」
「うーん。ちょっと考えてみる」
翼とハル君はとても早口で話す。通称マシンガントーク。
僕は脳内に言葉を出す隙すらない。
二人の怒涛の会話が途切れて、ようやく僕の思考が言葉になる。
「……すいません。僕にも話を振ってください」
「あ、ゆーちゃんごめん。忘れてた」
「わわっ、ごめん」
あっさり言い切るのはハル君。はっとして焦りつつ謝ってくれるのは翼。ゆーちゃんは、僕のニックネームだ。
「月っていうテーマでいいよ。うん。いいと思うよ。月って素敵。僕お月様好きだよ。ムーンだね。ムーンだよ!」
僕の口から、思考から直行した言葉がほとばしる。もう止まらない。
「ゆーちゃん、ごめんね」
翼が僕をなだめてくれる。翼はいつも優しい。穏やかで、温かい。それでいて何処となくクール。
「ったくなー。ほら」
呆れたようにパンケーキを僕の口に運ぶのはハル君。冷たいようで、一応優しい時もある。本当に時々だけど。
もしかしたら、この展開も彼(彼女である可能性も一応まだ持ってみる)の想定内で、仕組まれているのかもしれないけど。
「よし。会議再開だ」
パンケーキをもきゅもきゅ咀嚼している僕を見て、ハル君がそう言った。
翼も、静かなのに眩い光すら見える微笑を浮かべた。ブレンド茶をすすーっとすする。
「取り敢えずさ。メジャーなテーマから、がしがしやってきたいね」
「チョコクラで一通り」
「色んなものをチョコクラカラーにしてみるんだね!」
今度は僕も話の輪に入って、わいわい話し合う。
楽しい作戦会議は、段々とヒートアップ。
小さなファーストフードの店内の一角が、夢の世界に変わる。
僕達は何かとっても楽しいことをやってのけるつもりだ。
考えただけでわくわくして、想像するだけで幸せな、何かを。
僕らの作戦会議は、まだまだ終わらない。
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