ファースト

「ゆーちゃん」
「ファーストキスおめでとう!」
「おめでとう!」

 そして歌い出した二人を前に、僕は言葉を失くした。というか新曲だし……。
 いつのまに作ったんだ、また僕を歌にしてるのかよ、内容ちょっと待て、本気で作りすぎだろお前ら。
 次いで頭の中に突っ込みどころがたくさん浮かんできて、混乱した。
 何してんんだお前ら……!! いや違う、まずは……
「どうして君達がそんなことを知っていようか」
 二人はとてもいい笑顔をした。
「この前、のんちゃん二十歳の誕生日を祝ったんだろ?」
「翌日のんちゃん熱出したんだろ?」
「最近、体調はすっかり良かったのに」
「誕生日以来、ゆーちゃん、のんちゃんの話を避ける」
「尚且つ振られると頬を赤らめる」
「反論はございますか?」
 すいません、この近くに穴、ありませんか? 極力深めの。入りたいんです。はい。
「ゆーちゃんの考えることなんて大体読めるよね」
「わかりやすすぎる」
 入ったら埋めてもらっても構いません。えぇ。穴、探してるんですよ。
「大人になったのんちゃんにプレゼント」
「王子様の」
「キス」
 最後は二人で声を揃える。二人の片方ハル君は実際双子の片割れだから得意なのか。
「まぁ、ハモるのは双子なので慣れてます」
 読まれている。
「この感じは確定でOK?」
「OKです」
 もう片方、翼の問いに、ハル君の最終判決が下された。僕の言葉はスルーですか?
 のんちゃん関連のことでいじられるのは毎度のことだけど、今回はまた力入りすぎではないですか、やめてください勘弁してください本当にもう!!
 こうした経験を経た僕なりの返しはこうだ。
「じゃー二人はどうなんだよーファーストキスー!」
「それって、無理強いされたやつ含める?」
 そしてこうなる。翼の倍返し。我がバンドの二枚目翼は大の女性恐怖症である。恐怖症のほとんどがトラウマから来ているらしい。大体のことはされてきたという。
 あぁーもうー笑えない展開だよ、悪あがきながら川越祐斗、次の攻撃!
「ハル君は?」
 矛先が自分から逸れた途端、翼も興味津々になった。他人事だと聞きたがる。何やら小説創作のため、自分が恋愛できない分のデータを取っているとかなんとか……凄く性質の悪い作家根性。
「ハル、ファーストキスは何味だったんだっけ?」
 翼が尋ねた途端ハル君は目線を勢いよく翼へと上げ、胸倉をつかむ。翼の右腕もつかんで、身を翻す。次の瞬間、ハル君は背負い投げを決めた。……実は意外と怪力ハル君。華奢なのに。
 投げられた翼は、綺麗に受け身を取る。……実はやたらと強い翼。殴り合いの喧嘩とかしたことないだろうけど、戦ったら絶対負けないね、翼は。
 それにしても、何故なんだろうね。ハル君にファーストキスの話を振ると、とても嫌がられる。嫌がるというレベルを超えている。だって、自分より大きい翼を投げたんですよ!?
 いつもだったら一言で切り捨てるのに、この件では無言で攻撃してくる。反射的ですらあると思う。恋愛話は確かに好きではないようだが、これだけは別格だ。
 何かあったのかねぇ? でもそんな、翼じゃあるまいし……。
「ゆーちゃんだったら血の味がしているところだ……」
 僕はそんな暴挙に出ないもん。何事もなかったかのように涼しげに起き上がる翼。そして人が殺せそうな程凶悪な目つきになっているハル君。珍獣、注意。
 そして二人は僕の方を見る。結局僕の元に話は戻ってくる。うんうん。いつも通りだ。いつも通りだ。
「一応聞こう。ゆーちゃん、のんちゃんにファーストキスをあげたんですか?」
「それはのんちゃんだけが知っている」
 二人が撃たれたかのように胸を押さえた。何してるんだろう。以降、何も言ってこなかったので、それでよしとした。
 のんちゃんだけが、知っている。


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