プリフー2

 ベンチで寝ていたようだ。うとうと首を揺すると、柔らかい髪が頬に触れた。
 ……ん? 激しい違和感。
 えぇぇ!? 髪!! 髪が長いぞ僕!!
 ……僕の茶髪がロングになっている!!
 そして足が涼しい。
 ……えぇぇ!! スカート履いてる!! ってかこれメイド服!? えぇ!? 何!?
「メイド萌えー」
 前方に目を向けると、そこにはこの状況であまり会いたくない友達がいた。そうですね、ハル君です。
 ハル君は少し離れた場所で腕を組み、とても嬉しそうにこちらを見ている。
「萌えー」
 その笑みは、餌食を見つけた悪魔そのものだった。
「僕はどうなってしまったんだ!」
「僕っこ萌えー」
「そこの眼鏡黙っとけ」
 あぁ……あぁ……頭がついていかない。ロングの髪が明らかに地毛であるとか、なんか胸に膨らみを感じるとかいう事実を受け入れがたい。
 女装じゃないのか!?
「僕は女の子になってしまったのか!?」
「ニーソ萌えー」
「黙れや」
 つ、翼! 助けて翼! あ、今僕は女の子だから、翼は僕を怖がるのか!? ん!? もう何が何だか……。
 戸惑う僕の前に、一人のお姉さんがやってきた。とても美人さん。大きな目に、ぷくりとした唇。毛先にウェーブのかかった髪が揺れる。
「もう、二人ともここにいたの? 探したんだから!」
 ん? あれ? 高さがオクターブほど違うけど、この独特なハスキーボイスはまさか……
「翼!?」
「翼だけど……どうしたのゆーちゃん、そんなにうろたえて」
 小首を傾げてこちらを見る翼も、メイド服だった。やめてくれ無駄に可愛いしやめてくれ……!! というかメイド服ならのんちゃんで見たい……いや、なんでもない。
「行きましょご主人様」
 翼はハル君の腕を引いて歩き始める。
「ご主人様って何!」
 僕は二人の後を追うことしかできない。
 やがて僕達は大きな家に辿り着いた。ハル君がおもむろに振り返る。
「さてゆーちゃん……言うことがあるだろ?」
「はい?」
「お帰りなさいませご主人様!」
 先に声を上げたのは翼だった。え、言うことってまさか……
「ほら、続けよゆーちゃん」
 というか何で翼と僕だけ女の子なの。ハル君は?
「どっちだっていいでしょう」
 ……そういうことか……!!
 じゃあ何でご主人様なのさ!
「家は金持ちという設定をお忘れですか?」
「設定なの!? それ設定なの!?」
 もう何でもいい……。
「さぁ、ゆーちゃん、魔法が解ける呪文だよ、さぁ!」
 え、これ言えば元に戻るの?
「……お帰りなさいませ、ご主人様」

「ゆーちゃん萌えぇぇ!!!」

「何も変わらないじゃないかぁー!!!」

 ベンチで寝ていたようだ。随分と嫌な夢を見ていたような気がする。
 僕の前に誰かいる。メイド服を着た……
「のんちゃん!?」
「ゆーちゃん、おはようです」
 うわ、うわぁ、可愛いよー!! あまりの幸せで僕は卒倒しそうだよー!! 動揺しつつも目線はのんちゃんから外さない。

 ベンチで寝ていたようだ。あれ、今のも夢? あれ……?
 柔らかい髪が頬に触れた。
「ゆーちゃん、今日は何の日?」


今回はマブダチ1号リクエストです。
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