プリフー

「実はさ、ゆーちゃんのこと……ずっと前から好きなんだ」
 僕は今ハル君と2人で歩いてて、ふと空いた沈黙を破ったのがその言葉だった。
 何故か今日ハル君はハルちゃんモードで、女の子の格好をしている。
「ゆーちゃんがこの気持ちを受け取れないのは、よくわかってる。わかってるけど……もう耐えられなくて……だから」
そこでハル君は一旦言葉を途切らせ、僕の目を真っ直ぐに見た。切れ長の目が切なげに陰る。
「今日一日だけ……俺の恋人になって」
 これが奇妙な一日の、始まりだった。

 有無を言わさず頷かされた訳なのだが。それを合図にハル君は豹変。
 手繋いじゃってますよ。僕の右手はのんちゃんの左手を握り締めるために作られたというのに。
  大体ハル君が誰かと手を繋ぐ姿なんて、今まで考えたこともなかった。相手が僕とか尚更。
 そのまま部室へ。誰もいない。ハル君と手繋いでるとこは見られたくないので安心した。
 隅っこスペースに並んで座る。しばしの間が空いて、ハル君が僕の胸に寄り添ってきた。
「……ぎゅっとしろ」
 戸惑いつつも抱き締めてみる。小柄なハル君は僕の腕にすっぽりと収まり、何だかいい匂いがする。
 色んな意味でドキドキするのですが。
 ハル君の指が僕の頬をなぞり、首筋へ移動する。そのまま指先で撫でられる。
「あ、あの……」
 僕の声にハル君が顔を上げ、上目遣いでこちらを見る。
 ちょ……顔近い顔近い!!
 何だかあらゆるものが奪われそうで、僕はハル君を押しのけてしまった。悲しそうな表情をするハル君。
「ご、ごめん」
「いや、こちらこそ。ちょっと出てくる」
 そう言ってハル君は部室を出てしまった。一人取り残された僕。どんな反応していいかわからなくて、動揺ばかりが僕を占める。

 ドアが開いて入ってきたのは、翼だった。僕を見つけて、駆け寄ってくる。
 そしていきなり抱きついたかと思うと、後ろに押し倒した。僕は翼にのしかかられている。
 えぇぇぇ……!!
「ちょちょちょっと翼! 翼には雫ちゃんがいて……」
「……やっぱり、俺はそういう趣味らしく」
 ハスキーな低い声が耳元で囁かれる。
 そして、翼の綺麗な顔が、兎みたいな唇が僕に近付いてくる。まままさか僕のファーストキスが翼に……のんちゃんに捧ぐために大事に取っておいている僕のファーストキスが……その時、今度こそハル君が戻ってきた。
 僕たちの姿を見て、ハル君は絶句する。なな……何ていう修羅場、板挟み……。ハル君の傷付いた姿が痛々しい。
「……翼、ゆーちゃんのこと好きなの?」
 声が震えている。
「好き、だよ」
 耳を塞ぎたくなる、重たい静けさ。
 この間にも僕は翼に組み伏せられている。
 ど、どうしたらいいんだ……えぇ……えぇ……困ったよぉ……
「……ハル、そろそろやめてあげよう。ゆーちゃんが泣きそうだ」
「そうだな。そして最後はこうだな」


「大・成・功!!!」


えぇぇぇぇ…………

「コードネーム、プリフー、内容はゆーちゃんをめぐる三角関係」
 プリフー……エイプリルフールかよ!? ……騙されてしまったよ……。
「……素晴らしい演技でしたね」
「悪戯のためなら役者になります」
「……悪戯のためならあそこまでやりますか。際どかったんすけど」
「え、だってゆーちゃんを仲間として大好きなのは本当だし?」
 そう言って二人は僕をくすぐり始めた。四本の手に撫で回される。お、おい、おぉい……何処触ってるの!!


 チョコレートクランチは、エイプリルフールもばっちり参加します!!
 ……犠牲者は、僕。


ミー♪さんのトップ絵お礼を書いたらこうなっちゃいました。
予想外に本気を出してしまい、載せちゃいました。
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