飴と猫とねずみさんと

 2008年、一月一日。
 ねずみさんがやってきた。

 ねずみさんは茶色い透けたサングラスをかけている。
 猫人形達の前に現れて、見上げている。

 猫人形は二匹。(二人?)
 男の子と女の子。
 小さい人形に猫の耳が生えたような容姿をしている。

 ねずみさんは突然話し始める。

「これから一年は俺の時代だからな」

「そうなんだ」
「そうなんだ」

 今日も猫人形達は無表情。
 突然の来客にも冷静な反応。
「ところでお前ら、猫か? 俺を食べたりしないだろうな?」

「食べないよ」
「飴なら食べるよ」
 ねずみさんは不思議そうな表情をしている。
「じゃあ、お前らは小さい人間か?」

「猫人形だよ」
「猫人形だよ」

「猫なのか人形なのかはっきりしろよ」

「猫人形なんだもん」
「なんだもん」
 猫人形達はいつものように揃って返事をする。
 ねずみさんが黙っても、猫人形達は自ら話さない。
「お前ら、何で俺が此処に尋ねてきたかとか聞かないのか?」

「何で来たの」
「何で来たの」
 素直にそのまま尋ねる猫人形達。
 ねずみさんは猫人形達に慣れてきたらしく、話を続ける。
「俺はな。あらゆる場所へとおもむいて、色んな話を集めているんだ。チーズ一つで何処にでも行くぜ」

「チーズの飴は食べたことない」
「ない」
 また無言。
 猫人形達のマイペースな会話に慣れたねずみさんは話を続ける。

「ある所に行った時にだ。新年のラブストーリーを聞いたんだ」
 猫人形達は黙って頷く。
「大晦日さんと元旦さんという二人がいるそうだ。二人は愛し合っているのに、大きな障害があるんだ」
 ねずみさんはしばらく間を置く。
「二人は旧年から新年に変わる、ほんの一瞬の時にしか会えないんだ。七夕よりも短い時しか会えないんだよ。そんな二人の話だ」

「会えないのは寂しい」
「寂しい」

「その話と此処に来たことが何故関係あるかというとな」
 ねずみさんは一人で必死に話を進める。
 猫人形達は話を聞くが、全く先を促したりしないからだ。
「その話の出所を辿ってきたら此処に辿り着いたんだ」
 猫人形はまた頷く。
「何か知らないか? 聞いたこととか、ないか?」

「ないね」
「初めて聞いたね」

「そうか……じゃあ次の場所に行かなきゃな」

「旅立ち」
「お別れ」

「そうだな。お別れだ。俺はまた旅に出るんだ」

「頑張ってね」
「頑張ってね」

「お前らは面白かった。十二年後にまた来てみるのも、いいな」

「また来てね」
「また来てね」

「おぅ。遅くなったが、あけましておめでとう。幸せな一年を過ごせよ」

「おめでとう」
「おめでとう」

「自分のいる場所だけが、世界じゃない。時には旅立て。猫人形達」
 ねずみさんはまた旅に出た。
「はっぴー」
「にゅーいやー」
 猫人形達はねずみさんを見送りました。

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2008年お正月小説。
大晦日さんと元旦さんの話はミー♪さんがメールで送ってきました。
意味不明でしたが、使わせてもらいました。
今年も宜しくお願いいたします!

2008.1.1.Kyo

読んでいただきありがとうございました。
 

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