飴と猫ととりっくおあとりーと

「飴、なくなりそうだね」
「もうちょっとしかない」

 いつものように、会話をするのは猫人形。
 小さい猫耳の人形だ。舞台はどこかの子供部屋。
 無愛想な表情だが、楽しくないということではない。
 猫人形は毎日が楽しい。

 猫人形の飼い主(持ち主?)は、ベッドの上で電話をしている。
 相手はどうやら友達のようだ。

「あぁ。もうすぐハロウィンだしね」

 相槌を打ったり、勢い良く喋ったりしながら飼い主は部屋の外へ出て行った。

「はろ」
「うぃん」
 猫人形は顔を見合わせる。
「は」
「ろうぃん」
「とりっくおあ」
「とりーと」
 猫人形はそれから暫く喋らない。
 見つめ合ったまま意思の疎通を図っている。
 猫人形は立ち上がった。
 そして部屋を出て、ポメラニアンの元へ行く。
「タヌキチ」
「お散歩行こう」
 タヌキチ(ポメラニアン)は、キャンキャンと鳴いた。

 タヌキチはてくてくと歩く。
 その上には、猫人形が乗っている。
 タヌキチは小さい猫人形達の移動手段になっている。


 辿り着いたのは、シンプルなビルの四階。
 そこの一室に、タヌキチは入っていく。
 自動ドアだから、タヌキチでも入れるのだ。

 広くて白を基調とした部屋。
 部屋には、色とりどりのペンギンさんがいた。(ペンギンが通れる自動ドアは、タヌキチでも入れるのだ)
 それぞれが創作活動を楽しんでいる。
 楽器を演奏するペンギン、歌うペンギン、文章を書くペンギン、絵を描くペンギン。
 彼ら(彼女ら?)は、ペンギンクリエイターズというペンギン集団だ。
 猫人形とタヌキチを迎えてくれたのは、PC担当の黒ペンギン。
「とりっく」
「おあとりーと」
「ペンギン」
「クリエイターズ」
 猫人形は挨拶をする。黒ペンギンは何も喋らない。
 しかし、猫人形と黒ペンギンの間には会話が成立している。
「ペンギンさん」
「猫人形会いに来たよ」
 他のペンギン達も、猫人形の方へ眼差しを向ける。
 黄色のペンギンが、持っていたギターを弾き始めた。
 それに合わせて、紫のペンギンが歌い始めた。
 歌声は聞こえるが、紫ペンギンのくちばしが動いているようには全く見えない。
 でも、口パクではない。

 猫人形は音楽に合わせて踊り始めた。
 タヌキチは、その場で回り始めた。

 とても楽しい時間。
 演奏したペンギンさん以外も、創作がはかどってきたようだ。
 猫人形の元に、灰色のペンギンさんがやってきた。
 何やら白い袋を引き摺ってきた。
 灰色ペンギンは中から飴を取り出して、猫人形に渡した。
「ペンギンさん」
「ありがとう」
 ペンギン達は恐らく頷いたのであろう動きをした。
「また来るね」
「また遊ぼうね」
「キャンキャン」
 タヌキチの上に乗っかる猫人形。
 ペンギン達に別れを告げて、ビルを出た。


 次に来たのは、お花畑。
 何度か探険していたら、お友達ができたのだ。
「とりっくおあと」
「りーと」
「おかおくん」
「伝説のおかおくん」
 猫人形が呼ぶと、お花畑の隙間から白くてしかくいものが生えてきた。
 白いものは伸びるように生えてきた。
 紙みたいな体に、シンプルな顔がある。
 植物でも、動物でもある。そんな不思議な生き物。
 それが、おかおくん。
「こんにちは」
「こんにちは」
「猫人形」
「遊びに来たよ」
 おかおくんも、猫人形に挨拶を返す。
「こんにちは。飴だよね、あげる」
 おかおくんは、ゴムのように体を横に伸ばして飴を渡した。
「ありがとう」
「猫人形はこれあげます」
 猫人形がおかおくんに渡したのは、「東カルピスの天然水」。
 カルピスなのか水なのかわからない名前だが、ミネラルウォーターである。
 その水はおかおくんの大好物。かけても、飲んでも喜ぶのだ。
 おかおくんはペットボトルを前にして、嬉しそうに体をぐにょぐにょ横に揺らしている。
「また遊ぼうね」
「遊ぼうね」
 猫人形も一緒になって体を揺らす。
 そしてタヌキチの上に乗り、お花畑を後にした。


 猫人形とタヌキチは、あちこちを回る。
 ハトポッポーズという、(自称)ハトアイドルグループ。
 ニワトリーズという、(自称)ニワトリバンドアイドルグループ。
 そして、「チュンチュンファクトリー」というスズメの工場。

 帰る頃には、タヌキチの上にたくさんの飴が猫人形と乗っていた。
 最後にタヌキチと猫人形は、近所の公園に向かった。
 猫人形は、タヌキチから降りて飴を手に取る。包みを開けて飴を口に入れた。
 閃光。次の瞬間、猫人形がいた場所には二人の男女がいた。
 猫人形が変身したのだ。

 変身した猫人形は、今まで通り表情を変えることなくブランコに向かう。
 無表情のままブランコに腰掛け、ゆらゆら揺らす。
 タヌキチはそれを嬉しそうに見ている。
 しばらくブランコをこいで、満足した猫人形。
 ブランコから降りて、口の中に小さく残った飴を飲み込んだ。
 すると、猫人形は元の姿に戻っていた。
「おうちに」
「帰ろう」
「キャンキャン」
 タヌキチと猫人形は、おうちに帰った。
 空が赤く染まってきていた。
 猫人形は、飴を大事にしまった。

「お出掛け」
「楽しかったね」

「はっぴー」
「はろうぃん!」

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2008年ハロウィン小説。
ハロウィン→お菓子→飴→猫人形だ!
という安易な発想で書きました。
お友達達(ペンギンさんとか)は、Kyoの歴代カオスオリキャラより。
昔からのKyoのお友達が噴き出しそうなキャラです。
懲りずにまた書きたいものです。

では、楽しい10月をお過ごしくださいませ。

2008.10.2.Kyo

読んでいただきありがとうございました。
 

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