飴と猫と冒険と

 いつもの日当たりのいい部屋。
 ベッドは、持ち主によって使われている。
 ベッド持ち主=チナミは爆睡している。

「……風邪?」
「……風邪」

 ベッドの向かいにある、ピアノの椅子に座っている。
 猫人形二匹。
 男の子の方が、スケキヨ。女の子の方が、テレ猫。
 因みに名前は飼い主? がつけた訳ではない。
「すぐ治る?」
「うぅーん……」
 何故かそこで見つめ合う二匹。
 その間無表情。いや、常に無表情。
 人形だからなのか、性格なのか、未だ謎である。
「本見てみよう」
「本?」
 何処からかテレ猫が本を取り出した。
 分厚めの本。
 書いてある文字は、二匹にしか読めないらしい。
 ……何語だろう?
「ウコンケの花……」
「……変な名前……」
 とてもおかしな名前のその花は、病気を治す、と本には書いてあった。
 写真もついていた。ということは本当にあるのだろうか?

 細かいことは、気にしないことにして。

「その花、どこにあるの?」
「お花畑に行けば、あるんじゃない?」
 何故かまたボーっと見つめ合う二匹。
「どうやって行く?」
「……」
 腕を組んで考え出す二匹。
 首も傾いている。
 お花畑が、何処にあるのかわからない。
 自分達で歩いていくのは大変。人形だから、小さいのだ。
「タヌキチに相談しよう」
「そうしよう」
 二匹は、ポメラニアンのタヌキチの元に駆けていった。
 タヌキではない。ポメラニアンである。


「タヌキチ。お花畑、」
「どこにあるか知ってる?」
 二匹で、一つの事柄を話し出す。
 タヌキチは話を聞いて、キャンキャンと鳴いた。
「知ってるの!?」
「じゃあ、お花畑まで乗せてって」
 さっきのキャンキャンは、知ってるよ。という意味だったらしい。

 こうして、二匹は小さな冒険を開始したのである。

              ☆

 タヌキチに乗っかって、二匹は旅に出た。
 と言っても、遠くには行かないが。
 しっかり、お弁当をリュックに入れている(リュックはミニサイズ)
 到着したら、食べるのだろうか?
 移動中も無表情な二匹。
 それでも、楽しんでいるらしい。
 道行く人は、ポメラニアンが一匹で散歩しているかのように思うだろう。
 誰も猫人形二匹には気づかなかった。
 そして、お花畑に到着した。
「探すか」
「探すか」
 タヌキチから降りると、二匹にとってお花畑が花の樹海のようになってしまう。
 それでは探せないので、タヌキチに乗ったまま探し始めた。
「……ないねぇ」
「……ないねぇ」
 仕方がないので、二匹はお弁当を食べることにした。

              ☆

 フゥは、二匹を捜していた。
 チナミから「猫人形がいない」とメールが来たのである。
「ランランランラン……ララ! ララ!」
 と歌いながら、フゥは捜しに行った。
 何か、楽しいものでもあるのだろうか……?

              ☆

 お弁当も食べ終わり、二匹は捜索を再開した。
 本の写真を見ながら辺りを見回す。
「……ないねぇ」
「ここら辺にはないのかなぁ」
 タヌキチもキャンキャンと鳴く。
「そうだね」
「やっぱり珍しいのかなぁ」
 先程のタヌキチのキャンキャンは「珍しいのかな?」という意味らしい。
 二匹はまた無言無表情で見つめ合う。
 そしてコクリと頷き合うと、リュックから飴を取り出した。
 テレ猫がイチゴミルク、スケキヨがグレープのキャンディ。
 無表情のまま口に入れる。

 瞬間、二匹の辺りを光が包んだ。
 お花畑に現る男女。(高校生くらいに見える)
 元の姿とあまりにも外見が違うので。
 スケキヨがカーニバル。テレ猫がノクターンと呼び名を変えている。
 カーニバルは通称カーちゃん。ノクターンは通称ノク。
 二人はしゃがみ込んで、また花を探し始めた。
 無表情で、お花畑で、何か探す二人。
 はたから見たら、かなり怪しい光景である。
「ないねぇ」
「ないねぇ」
 無表情のまま必死に探す二人。
 そんな二人に迫る影。
「カーちゃん……カーちゃん……」
 ……カーちゃんに危ない影アリ。
 二人が気づく前に、影は飛んだ。
「……!?」
 フゥがカーちゃんに飛びついていた。
 驚く二人……とポメラニアン一匹。
「仕方ない」
「見つからない」
「逃げよう」
「キャンキャン」
(訳:了解)
 因みに二人と一匹の会話フゥにはわからないようだ。
「チナミが心配してたよ〜」
 ギュッと張り付いてくるフゥを剥がして、走り出す。二人と一匹。
 相変わらずの怪しい笑顔を貼り付けたままフゥも追う。

              ☆

 部屋にまで侵入してこようとするフゥを押し留め。
 何とか家に逃げ帰った二人と一匹。
 チナミは布団の中で、本を読んでいる。
「何処行ってたの……?」
 その問いに、元の姿に戻った二匹はお互いを見つめ合って頷く。
 タヌキチはキャンキャンと鳴いた。
 チナミは不思議そうに首を傾けて、本を置いてまた寝た。
「見つけられなかったけど」
「楽しかったね」
 二匹とタヌキチは身を寄せ合った。
 そして、心地よさそうに眠り始めた。

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数年前の話第二段です。

読んでいただきありがとうございました。
 

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