飴と猫とお散歩と

 ドコかの市の、ドコかの町。

「何? お散歩したいの?」

「(コクリ)」

 二人(二匹?)の小さな物語。

       ☆

 日当たりのいい部屋。ベッドが一つ。ほとんど使用されない勉強机も一つ。

 時に5月。少女だと思われる人物×2。
 肩までのストレートヘアー少女=チナミ(身長149・8センチ、前回測定時よりプラスマイナス0)。
 早口(コレが普段)で話し出す。
「何描いてるの?」
 その問いに、ツインテール(二つ縛り)の少女?=フゥ(身長146.3センチ、前回測定時よりマイナス4o)。
 笑いながら答える。
 どうやら、漫画の登場人物を描いているようだ。
 原作を無視した、奇妙な絵が描かれている。

 まぁ。絵の内容がどことなく危ないのはいつものこと。
 ため息だけついて、チナミは考えないことにした。
「あっ。無視しないでよぉ」
 チナミは友達が来るということで、部屋に移動しているパソコンに文字を打ち出す。フゥのことはキレイに無視。
 趣味の小説書きをしているのだろう。
 フゥが部屋を見渡すと、ベッドの脚の陰からコッチを覗く、者がいる。

 瞬間フゥはそっちの方に飛びついていった。
「……っ!?」
 覗く者はビックリして逃げて行く。
 案の定、床に倒れこむフゥ。
「イッダぁイ……」
(訳:痛い)
「……何やってんの……」
 チナミは訝しげな表情で、パソコンから目を離す。
「何かいたぁ……」
 フゥは、手を弱く演奏する所の指揮のように手をグイィグイィと動かしながら言う。(コレが普段)
「あぁ」
 短く答えて、チナミはベッドの下を覗く。
「大丈夫。危ない人だケド出ておいで」
「私は危なくなぁいっ!」
 また、フゥは指揮のように手を下から上ににウゴウゴさせながら叫ぶ。

 すると、おそるおそる、小さな人形がトコトコと歩いてきた。
 人形は、普通の縫いぐるみサイズで、人間に猫耳が生えたような姿をしている。
 人形なのに、不思議と目つきが悪い。
 幼い子供が睨んでいるよう。
 それが二匹。男の子であろう方と女の子であろう方がいる。至極無表情。

「こっちが猫人形のスケキヨ。何かのマンガキャラの名前らしいよ」
 男の子の方を指して言う。
「らしいよって君がつけたんじゃないの?」
「私はつけていないのさ」
 チナミはニヤリとして言う。
「こっちが猫人形のテレ猫。どっからそんな名前が出てきたのか、私にはわからない」
「……って君がつけたんじゃないの?」
「私はつけていないのさ」
 チナミはまたニヤリとして言う。
「……ほぅ。ソイツらはしゃべるのかい?」
「ソイツら言うなっ!だって」
 チナミは、二匹を見てフゥに言う。ニ匹は声を発していない。
「……ってかチナミさん何故わかる……?」
「何故でしょう」
 チナミはまたまたニヤリとして言う。
「ん? 何? あぁ。ソイツどうでもいいから飴くれと。わかったわかった」
「だから何故わかる……?」
 チナミはフゥの呟きを無視して、飴を取り出す。
 白にイチゴが描かれた包み。ほいっと、テレ猫に渡す。
「……飴食べるのかよ」
「ハッハッハ。A型は細かいこと気にしちゃいけないのだよ」
 チナミは笑いながら、スケキヨにもグレープキャンディーを渡す。
 因みにチナミとフゥ、二人ともA型である。
 もきゅもきゅと飴を転がす二匹。

 すると、バッと光が放たれ、二匹がいた場所には、見たところ普通の男女(?)がいた。
 相変わらずの無表情で、二匹は座る。
「……っえぇ〜っっ!」

 叫ぶフゥ。少し引き気味に驚いたチナミ。フゥを手で抑えられそうにないので、首を絞めて黙らせる。
「ぐぎゃぎゃっぐぇっ……」
 当の二匹は、また無表情に耳を塞いでいた。
「何で飴食べたら人間になるの……?」
「人間じゃないよぉ、人形だよぉ」
 コクコクと頷く、二匹。
「で、スケキヨがカーニバル。通称カーちゃん。やっぱりこのネーミングセンスはわからない」
「やっぱり君がつけたわけではないのだな」
「で、テレ猫がノクターン。通称ノク。コレに関しては突っ込むな」
「コレは君がつけたのか……」
 何故猫人形の時と、普通? の人形の時で名前が違うか?
 外見が明らかに違うからである。
 カーちゃんは先ほどフゥが描いた絵を見て、無言無表情で、ビクッと固まる。
 ノクはチナミの書いた話を無表情でじっと見ている。
「……何で表情変えないの……?」
「まぁ、人形だし、多分そういう性格だし。フゥが年中笑いすぎなのだよ」
「あははは!」
 言われた側からまた笑うフゥ。コレはもう誰にも止められない。
「ん? お散歩したいの? ……ネコのお散歩行かない?」
「ネコ……散歩……」
 フゥは、明らかに人間に見える二匹を一瞥して呟く。
「行く」
 単語を並べただけのセリフ(名詞名詞、動詞)を発して、フゥはまた笑った。
 こうして、二人と二匹は外に出た。


 ちょっと近くの公園まで。

 二匹が二人の前をトコトコ歩く。
 二匹の容貌は、十五から十七歳ほど。
 フゥは十五、チナミは十六。
 二匹の方が大人びて見える。
(フゥとチナミの二人は小学生で通用する)

 公園について、二匹は無表情でブランコに乗る。
「……ってか怪しくないか……?」
「……ウン。かなり怪しい」
 フゥが呟く、チナミが答える。
 高校生くらいにすら見える二匹が無表情でブランコこいでいるのは怖いものすらある。
「楽しそうだけどね」
「だから……何故わかる」
 チナミが言葉を重ねる。フゥがツッコむ。

 ゆーらゆーらとこぐ二匹。

 順番待ちしている子供の様に立っている二人。
「……乗ろうか」
「……そうだね」
 この怪しい状況に耐え切れず、二人もブランコに乗る。

 ゆーらゆーらとこぐ一同。

 しばしこいだ後、二匹は、一旦チナミの方を見て、またトコトコと歩き出す。
 二匹は中央にあるドーム型アスレチックの中に入る。
 チナミはソコへ向かって走り出す。
「何故に急ぐ?」
 とフゥもついてくる。(突進してくる)
 フゥがソコに着いた時、二匹は人形の姿に戻っていた。
「……なるほどな。飴舐め終わったら戻るんか。……ってチナミはまたわかったのかよ!」
 頭の中疑問符だらけのフゥに構わず、チナミは二匹を抱く。
「帰るか。そろそろ」
「ウン。私も抱っこするぅ……」
 フゥが言うと二匹がフルフル怯え出した。
「……すっごい怖がってるけど……?」
「でも、無表情じゃん!」
「いや、怯えた表情ではないか」
「だから何故わかる……」
 その後、またチナミ宅で少し奇妙な会話を交わし、危ない絵を描き(フゥが)意味不明文章を書き(チナミが)。
 フゥがスケキヨに「カーちゃんになって、カーちゃんになって!」と脅し、それを見たテレ猫はかなり震え……、

 そして嵐は去った。

 静かになった部屋。未だに怯える二匹。
 残ったのは、フゥの上手危険絵と、チナミの不思議意味不明文章。
 その他、色々。


       ☆
 とある日は雨。
 雨にも負けず、風にも負けず、フゥはチナミの部屋にいた。
「本日も汚い部屋ですが……気にするな」
「大丈夫大丈夫。私の部屋も汚いけど気にするな」
 相変わらずの会話。
 相変わらずのフゥの……ヤバイ絵。
 相変わらずのチナミの……理解不能文章。
 今日もまた、何かおかしいものが創作されていく。
「そういえばあの猫人形達は?」
「あぁ。フゥが来たから隠れたんじゃない?」
「何でっ!?」
 また今日もフゥは叫ぶ。手をウゴウゴさせる。
 一階からチナミの母の笑い声が微かに聞こえる。
「お母さん笑ってるね」
「多分君に対してね……」
「何でっ!?」
 ……エンドレス ……
「大丈夫〜超危険人物いや、人と呼べる代物じゃないケド出ておいで〜」
「私は人間〜っ!」
 チナミの矛盾した呼びかけ。

 二匹は出てこない。
 いる気配すらない。
「あっれぇ……?」
 キョロキョロ辺りを見渡すチナミ。目が心配そうな色になって揺らいでいる。
「出ておいでよぉ〜!」
 笑顔のまま叫ぶフゥ。
「いや、余計に出てこないから……」
 外は雨が降りしきる。止める気はなさそうだ。
「探し行きたいけど、いい? 平気?」
 首を傾けて、チナミはフゥにきく。
「行くイクイク! カーちゃんに会いたい」
 ……やっぱり連れてかない方がいいものか?
 とチナミは思うが、後の祭り。

 そして二人は傘をさして、外へと出た。
「カーちゃん! カーちゃん!」
「……何故にそんな気に入った……」
「カッコいい! カーちゃん!」
 ……もう誰にも止められないとか思ってみたり、確信づいたりしてみるチナミ。

 ため息以外、何も出ない。


 その頃、二匹は公園への道にいた。大きなマンション前の道路。雨の所為か誰もいない。
 いても、足もとで歩いている小さな猫人形には気づかないだろう。

 キョロキョロと辺りを見回して、誰もいないことを確認する。しばしの沈黙、雨の音。
 そして、二匹がいた場所には、二人の少年少女がいた。
 すっと、顔を上げる。

 ―― 瞬間、二匹の所へ、車が迫ってくる。

 二人は、両脇に避けていた。
 ホッと息をつくノク。カーちゃんの姿を探す。
「……アレ……?」
 カーちゃんの姿は見当たらない。
 自分のことを置いていくとは思えない。
「じゃあ、もしかして……」
 今度は下を探す。元の姿に戻ったのかな? とノクは思ったのだ。


 その頃カーちゃんは、スケキヨに戻っていた。

 目の前に立ちはだかる大きな犬。スケキヨには怪物のよう。犬は牙をむいて唸っている。飼い主は見当たらない。

 どうすることも出きずに立ちすくむスケキヨ。
 ―― 犬はジリジリ向かってくる ――

 そんなスケキヨに気づいたノク。
 結構遠くて、走っても間に合わないだろう。
 とっさにノクは舐めていた飴をスケキヨに投げる。
 飛んでくる飴に気づいたスケキヨ。
 飛びつかんばかりに迫ってくる犬。

 ノクはテレ猫に戻り、ふっと目を開けた。
 視界の端で、チナミとフゥが走ってくるのが見える。
 反対側を見た。
 犬が見える。
 犬は上を見上げて後退している。
 犬の視線の先にはカーちゃんがいた。
 グッと犬を睨む。犬は文字通りシッポを巻いて、逃げていく。
 ふぅ。っと息をついて、カーちゃんはテレ猫をひょいっと抱き上げる。
「カーちゃあぁぁぁん!」
 フゥがカーちゃんに向かって飛んでくる。
 無言無表情で、かわすカーちゃん。
 そしてペッコリと頭を下げてから、チナミにテレ猫を渡す。テレ猫はクシュンと言った。


 またチナミの部屋。二匹とも猫人形の姿でいる。
「ねぇーねぇー今度の話さぁー、私を出してイケメンに抱きつかせて!」
「却下」
 即座に切り捨てるチナミ。怯えまくる二匹。二匹はチナミのタオルに仲良くくるまっている。
 フゥは、チナミに小説のリクエストをしていたのだ。
「じゃぁ、フゥが抱きつく!」
「前書いたじゃん……」
「もっかいもっかい」
(訳:もう一回もう一回)
「よし。ウチの学校の文化祭に来い」
「行く」
「まっさきに文芸部に来い」
「ウン」
「絶対来い」
「ウン」
「よし書こう!」
 二人の電波な会話は誰にも止められない。
 ニ匹は何か話している。

「アリガト」
 フルフル
「いいの。無事でよかったの」
「死ぬかと思ったぁ……」
「ウン。ビックリした」
「何かカッコ悪かったなぁ」
「いや、雨に濡れながら犬睨んでたカーちゃんはカッコよかった」
「実体は犬に襲われかけてた猫人形……」
「でも、フゥさんに好かれてるジャン」
「嬉しくない……」
「やっぱり……」
 チナミがクスリと笑う。

「え? どうしたの?」
「いや。あの二匹が楽しい会話を……」
「だから何でわかるのっ!?」
「普通はわかるのだよ」
「いや、絶対ない絶対ない」

 ニ匹はまだ話しているが、口は開いてないし、声は出してないし、お互いの方見てないし、無表情。
 ただ、猫人形が二匹、並んでいるようにしか見えない。
「ねぇ〜抱っこしたいぃ……」
「いっやぁ……二匹が怖がってるから」
 フゥはチナミを半ば脅している。
 ニ匹は危険を察して、ベッドの布団の中にコソコソ潜りこむ。
「あっ逃げたぁ……」

「キャハハっ!」
 布団の中で猫人形たちが笑顔になったのは……

 誰も知らないのです。

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改変3回目の話です。
これ書いてから、早数年。

読んでいただきありがとうございました。
 

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