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飴と猫と1000ひっと
「せん、って何?」
「大きいの?」
「ひゃくよりは大きいらしい」
「ぜろもみっつらしい」
いつものように話すのは猫耳の人形。男の子と女の子、猫人形。
そこは、普通の子供部屋で、猫人形はベッドの下。
「ここの世界の何かを現す数字らしい」
「小さな世界」
「ここの世界は」
「小さな世界」
二人(二匹?)は無表情のまま。
因みに(というかちなみ)飼い主には楽しいとわかるらしい。
そこに、ペンギンさんがやってきた。
サンタさんのような袋を背負っていて、旅の途中のようだ。
ここは閑静な住宅街であって、しかもここは子供部屋であって、ペンギンさんがやってくる場所ではないのだが。
「ペンギンさん」
「こんにちは」
ペンギンさんは表情を変えず、声も発さずに二人を見た。
「ペンギンさん」
「小さな世界」
「案内してくれるんだね」
「猫人形は着いて行きます」
何処でどう意思の疎通が成立しているのかは、もしかしたら飼い主にさえわからない。
ペンギンさんは一冊の本の上に乗った。くすんだ赤色をしている。猫人形もそれに続く。
「れっつ」
「ごー」
本が青い光を王冠状に放つ。ペンギンさんと猫人形が光に包まれる。
次の瞬間には、ペンギンさんも猫人形も本も姿を消していた。
ぼやけたセピアのような建物が連なる。
所々に壊れた箇所が目に付く。人気がない。無の雰囲気、静寂。
嵐が去った後のようだった。
「別世界」
「ファンタジー」
ペンギンさんはまた二人の方をじっと見て、街並みに目を移す。
「ここから」
「十年をめぐる物語」
「ここから」
「始まった」
猫人形は呟く。ペンギンさんも猫人形も、相変わらず無表情。
ここで始まる物語。寡黙で高い身体能力を持つ銀髪の少年と聞こえないものを聞き取る優しい少女。
今二人は何処にいるのでしょう。
ペンギンさんと猫人形はその場を後にする。
本の上に乗り、再びワープ。
部屋に出てきた。ギターと電子ピアノが置かれている。
ピアノの上には楽譜がいくつも乗せられている。楽譜にはたくさんの音符が並んでいる。
壁沿いに本棚が置いてあり、ぎっしりと本が詰まっている。
「趣味はわかりやすく」
「音楽と読書」
整理された机。この机には、机の持ち主が大学生になったらパソコンが来る予定だ。
「ここは」
「ウチの近所だ」
猫人形達の家の近所にも、ここの近所にも公園がある。
別世界へと飛び、そこから今度は近所にやってきた。
ペンギンさんが何かを置く。その動作は誰も見ていない。
そこには、三角の形のピックがあった。ペンギンデザイン。
ギターの近くに、同じような三角の形をしたピックがいくつかある。そこに、ペンギンさんのピックが加わった。
猫人形も持参している飴を置いた。
「猫人形とペンギンさん」
「ここに現る」
ペンギンさんと猫人形は机の下にもぐる。
部屋に、持ち主が入ってきた。若い青年だ。
すぐに見慣れないピックに気がついたようで、首を傾げている。
ギターの一つをケースから取り出す。アコースティックギターだ。
ベッドの上にあぐらをかいて、青年はギターを弾く。
ペンギンピックで弦をはじく。
ペンギンさんと猫人形は聞き惚れて、それからまた本に乗った。またワープ。
次にやってきたのは、公園だった。猫人形宅の近所の公園とは違う。
小さくてシンプルな公園。一番目立っているのは、ブランコ。
そのブランコも今は寂しく見える。公園には誰もいない。
ここはある時一瞬だけ、小さな戦場になった。
「青春の」
「一ページ」
公園の前を、とても仲が良さそうな男女が通り過ぎた。
ペンギンさんと猫人形は本に乗る。ワープ。ブランコが微かに揺れた。
猫人形には見慣れない風景。学校の教室だ。
等間隔で机が並び、まばらに学生達が座っている。帰り支度をしている学生が多い。
授業も終わったばかりの放課後だ。
女子校なため、全員女子だ。
ペンギンさんと猫人形は、机にかけられたリュックの中に入っていた。
開いたリュックの隙間から、顔を出す。誰もペンギンさんと猫人形に気付かない。
ペンギンさんと猫人形はリュックの持ち主を眺める。
ショーットカットの女の子だ。赤い眼鏡をかけていて、ピンク色の携帯に目を落としている。
先程携帯が震えてメールの着信を伝え、女の子は携帯を制服のポケットから取り出した。
じっと携帯の画面を見て、女の子はいきなり派手に笑い始めた。
ペンギンさんと猫人形は無表情のままびっくりする。びくりと体を震わせた。
近くにいた人達は、驚くでもなく女の子に尋ねた。
「どうしたの?」
「兄貴が一時間目から今まで爆睡してたらしい」
「お兄さん? 双子の?」
「そう。朝から昏々と机で眠り続けて、今起きたらしい」
にやりと笑いながら女の子は質問に答える。答えながら素早く指を動かし、メールに返信する。
女の子の双子の兄は眠ったら最後、なかなか起きない。女の子はそのことを一番よく知っている。
何故なら毎朝兄を蹴り起こしているから。
噛み付いてもなかなか起きなかった時は、脈を診た。(一応生きていた)
何度か女の子の兄が腕に噛まれた跡を残しながら登校した理由を、これでクラスメイトは理解しただろう。
そんな内容を女の子は友達に話している。
「いっそ一晩寝てたら良かったのに」
突き刺すような口調でとても楽しそうに女の子は言った。
猫人形も話す。
「可愛い」
「女の子」
「見た目は」
「可愛い」
ペンギンさんと猫人形はその様子をじっと見ていた。
そして、教科書が入ったリュックの中で、ワープ。
因みにその日、女の子の兄は「眠り姫」という二つ名を手に入れたらしい。
キスなんかじゃ起きないと思われているが。(実験する勇者はまだいないらしい)
ペンギンさんと猫人形は、再び猫人形の家に戻っていた。
飼い主は部屋に戻っていないらしく、誰もペンギンさんと猫人形の冒険を知らないようだ。
「楽しい」
「旅行」
「色んな場所」
「行った」
「とっても」
「面白かった」
猫人形はペンギンさんにそう話す。
ペンギンさんは微動だにせずに聞いていた。
「ペンギンさん」
「ありがとう」
結局最後まで、ペンギンさんと猫人形の意思の疎通は成功していた。
ペンギンさんは、また本に乗る。猫人形はお見送りだ。
「また来てね」
「また来てね」
ペンギンさんは本と共に姿を消した。
ペンギンさんがいた場所には、さっきのペンギンピックが残されていた。
「さっきの」
「ギター弾くやつ」
そして、ペンギンしおりが残されていた。本に挟むそれだ。
「新グッズ」
「新商品」
恐らく非売品だと思うが、猫人形はそんなことを言った。そして顔を見合わせる。
「さんくす」
「せんひっと」
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飴猫シリーズ。
初めて書いたのは、かれこれ三年前。あの頃私は若かった。(色々と)
長く続いているシリーズで愛着あります。
裏話としては、書き終えた日、普段ほとんど人が来ないこのサイトにいきなり人が来たんです。
まだ間に合うだろー♪と高をくくってゆっくり書いてたら早々と1000Hitに届いてしまったという…。
慌ててこの話を書きました。間に合っては…いると思います。間に合ってるって…。
誰か、ペンギンピックとペンギンしおり作りましょうよ(何)
この話を楽しいと思ってくれた方は、だいぶこのサイトを見てくれている方ですね。
ありがとうございます。m(_ _)m
わからない方は、このサイトの他の小説を出だしだけとか斜め読みとかすればわかります
。
(もちろん全部読んでいただいても大喜びです)
兎にも角にも。うさぎにも、つのにも。
1000Hit、ありがとうございます!!
By 空と粉雪ワンダーランド Kyo&ミー♪
http://skypowdersnow.aikotoba.jp/
2008.7.7
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読んでいただきありがとうございました。
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